「あれはだめなの――?」セ?ネドラは片手であいまいなしぐさをした。
 ガリオンは首をふった。「そういうことに限界があるのはわかってるだろう、セ?ネドラ」
「じゃ、魔法のいいところってなんなのよ?」セ?ネドラはにがにがしげにリヴァの灰色のマントをいっそうしっかり体にまきつけて、寒気をしめだそうとした。
 次ののぼりにさしかかったとき、大きな白い梟《ふくろう》がかれらを待っていた。立ち枯れた白い大木の折れた枝にとまって、まばたきひとつせず、金色の目でかれらを眺めてい

る。
「レディ?ポルガラ」セ?ネドラは小首をかしげてポルガラに挨拶した。
 白い梟はおもおもしく、ぎごちない態度でちょっとお辞儀をかえした。ガリオンはふきだした。
 梟の姿がにじんで、そのまわりの空気がいっときゆれた。ポルガラが足首を交差させて静かに枝にこしかけていた。「なにがそんなにおもしろいの、ガリオン?」
「鳥がお辞儀するのなんてはじめて見たよ。それがおかしかっただけさ」
「笑い死にしないようにすることね」ポルガラはしかつめらしく言った。「こっちへ来て、おろしてちょうだい」
「うん、ポルおばさん」
 ガリオンに手伝ってもらって地面へおりると、ポルガラは真顔でガリオンを見つめた。「二リーグ前方に大規模な信仰勢力がまちぶせしているわ」
「どのくらいの規模?」
「こっちの一倍半よ」
「みんなに言いにいったほうがいいな」ガリオンはけわしい表情で馬首をめぐらした。
「連中を迂回する方法があるんじゃないか?」信者の軍勢が前方でまちぶせしていることをポルガラが全員に話したあと、ダーニクがたずねた。
「そうは思わないわ、ダーニク。敵はわたしたちがここにいるのを知っているのよ。わたしたちはまちがいなく監視されているわ」
「では、攻撃するよりほかはない」マンドラレンが主張した。「われわれの大義は正しいのであるからして、勝利するにきまっておる」
「そりゃおもしろい迷信だな、マンドラレン」バラクが言った。「だが、おれはその兵力がこっちの味方だったらよかったのにと思うぜ」大男はポルガラに向きなおった。「やつらは

どう展開している? つまり――」
「その言葉の意味なら知ってるわ、バラク」ポルガラは足で地面をきれいにし、棒をとりあげた。「すぐ前方に丘陵があって、その裾野部分に峡谷があるの、わたしたちがたどってい

るこの道はその峡谷を通っているわ。峡谷がもっとも深くなるあたりに雨溝が数本走っているの。信者グループは四つにわかれていて、グループごとに雨溝に潜んでいるのよ」ポルガ

ラは棒で前方の地形をおおざっぱに描いた。「あきらかに、わたしたちをまっすぐ進軍させておいて、四方八方から一度に襲いかかる計画だわ」
 ダーニクは眉をよせてポルガラのスケッチに目をこらしていたが、考えこむように頬をさすりながら言った。「グループのひとつをやっつけるのは簡単なはずだ。残る三グループに

こっちの動きが見えさえしなければ問題はないんだが」
「まあ、そういうことになるな」バラクが言った。「しかし、誘われないからって、そいつらがじっと隠れているはずはないわな」
「そうなんだ」鍛冶屋は同意した。「したがって、残りのグループの接近を阻止する障害物のようなものを作らなくてはならない」
「なにか思いついたのね、ダーニク?」ポレン王妃が言った。
「同志の援助にかけつけようとする悪党どもを阻止するとは、いったいいかなる障害物なのだ?」マンドラレンがたずねた。
 ダーニクは肩をすくめた。「火ならうまくいくだろう」
 ジャヴェリンがかぶりをふって、かたわらに広がるハリエニシダの低いしげみを指さした。
「ここにあるのはまだ緑のものばかりだ。これじゃよく燃えない」
 ダーニクは微笑した。「本物の火である必要はない」
「あんたならできるかい、ポルガラ?」バラクがたずねた。目が輝きをおびている。
 彼女はちょっと考えた。「一度に三ヵ所はむりだわね」
「しかしわれわれは三人、ポル」鍛冶屋は思い出させた。「きみが一つのグループを幻の火で足止めする。わたしが二つめのグループを、ガリオンが三つめのグループ

を足止めするんだ。三つのグループをそれぞれの雨溝にとじこめておいて、あとの一つを片づける。それがすんだら次に移ればいい」ダーニクの眉間にかすかなしわがよった。「唯一

の問題は、わたしが幻のつくりかたをよく知らないということだ」
「そんなにむずかしくないわ、ディア」ポルおばさんはダーニクを安心させた。「あなたもガリオンもすぐにコツをのみこむわよ」
「どう思って?」ポレン王妃はジャヴェリンの意見をただした。
「危険です。きわめて危険です」
「ほかに方法があって?」
「といって、これといった安全策は思いつけません」