スパーホークは夕刻早く城壁の上に立って、燃える市街を眺めた。気分が落ち込んでいる。そのとき背後にかすかな物音がして、騎士はすばやくふり返った。そこにいたのはサー?ベヴィエだった。
「あまり芳《かんば》しくありませんね」若いアーシウム人の騎士は、やはりカレロスの街を眺めながら言った。
「まったくだ」スパーホークは若年の友人をまっすぐに見つめた。「大投石機に対して、この城壁はどのくらい持ちこたえられると思う」
「長くは無理でしょう。この城壁は古い時代のもので、近代的な攻城兵器による攻撃を考えて築かれてはいません。ただ、たぶん敵は大投石機を作ろうとはしないと思います。時間がかかりますし、組立作業にも熟練を要します。できの悪い大投石機は、敵よりも味方のほうを傷つけることが多いくらいですから。あれを使うのはなかなか大変なのです」
「そう願いたいものだ。普通の投石機ならこの城壁でもそれなりに防げるだろうが、半トンもある岩をぶつけられたりしたら――」スパーホークは肩をすくめた。
「スパーホーク」タレンが階段を駆け上がってきた。「セフレーニアが騎士館で会いたいって。急ぎの用事だそうだよ」
「行ってください、スパーホーク。ここはわたしが見張ります」ベヴィエが言った。
 スパーホークはうなずき、階段を下って狭い街路に降り立った。
 セフレーニアは一階のホールで待っていた。いつにも増して蒼白な顔色になっている。
「どうしたんです」とスパーホーク。
「ペレンです、愛しい人」その声はかすれていた。「死にかけています」
「死にかけて? まだ戦闘は始まってないんですよ。何があったんです」
「自殺を図ったのです」
「ペレンが?」
「毒をあおったのですが、何の毒なのか言おうとしないのです」
「何か手だてが――」
 セフレーニアはかぶりを振った。
「あなたと話したがっています。急いだほうがいいでしょう。もう時間がなさそうです」
 サー?ペレンは地下室のような部屋の小さな寝台に横たわっていた。顔色は死人のようにまっ白で、激しく汗をかいている。
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「遅かったな、スパーホーク」く弱々しかった。
「どういうことなんだ、ペレン」
「こうするしかないんだ。時間を無駄にするな。逝く前に話しておきたいことがある」
「話なら、セフレーニアが解毒剤を飲ませてからでいい」
「解毒剤はない。いいからおとなしく話を聞いてくれ」ペレンは大きなため息をついた。「スパーホーク、おれはおまえを裏切った」
「おまえにそんなことができるものか」
「誰だって人を裏切ることはできる。必要なのは理由だけだ。おれには理由があった。とにかく聞いてくれ。もうあまり時間がない」ペレンはしばらく目を閉じた。「最近になって、何度か命を狙われたことがあったろう」
「ああ、でもそれが――」
「あれはおれがやったんだ、スパーホーク。あるいは、おれの雇った人間が」
「おまえが?」
「幸いにも失敗したがな」
「なぜだ、ペレン? 気づかずにおまえを侮辱したか」
「ばかを言うなよ、スパーホーク。おれはマーテルに命令されてたんだ」
「どうしておまえがマーテルに?」